[ボンベイ]

 

<店の概要>

 駿台柏校の近くにある、行列のできるカレー屋。このあたりにしては値段がやや高めだが、その分質でカバーしている。しかし、以前二人いたコックのうち一人がやめたとき、値段が上がった上に営業時間が短くなってしまった。飲食店として午後6時にはすでにあいていないというのは致命的な気がする。

<カレーについて>

 味は恐らく柏エリアでもNo.1であると思われる。ポーク、チキン、ビーフ、と主要なメニューは全て揃えている。野菜がたくさん入っているボンベイカレーが店のお勧めのようだが、個人的にはビーフカレーを推したい。こくのあるカレーソースと、存在感のあるビーフはなかなか他では味わえない。

 この店の名物は、何といってもカシミールである。カシミールというメニューはどういうわけかいろいろな店で見かけるが、たいていのものは単に辛いだけのカレーで終わる。だが、ここのカシミールは一味違う。慣れるまでは多少つらいかもしれないが、慣れてしまえばかなりおいしい。この「カシミールがおいしく食べられる」というのが激辛道を極めんとするものの醍醐味の一つであると私は思うのだ。

<激辛道>

 前述のように、ここのメニューで一番辛いものはカシミールである。だが、この店は注文する際に色々小細工ができ、辛さや量に若干の変更が加えられる。そして、一般の人間にはかなりつらいカシミールをさらに辛くすることもできるのである。

 カシミールは極辛となっているが、その上に超極辛、超2、超3と辛さをグレードアップすることができる。初心者には超2が限界ではないだろうか。ここで「一番辛いカシミール」と言うのを頼めば、超8が出てくる。カレーとはちょっと違うような気もするその赤さと、驚異的な唐辛子の匂いにまず驚くが、とりあえず食べてみるとさらに驚く。半端な辛さではない。ていうか、カレーの味じゃない。もともとカシミールはスープ状のさらさらしたカレーであったはずなのだが、なにやらどろどろしたシチューっぽい感じである。原型をとどめていない。頭の中が朦朧とする。すでに思考回路は停止している。熱が40度くらいある。右手がしびれてきた。水が欲しい。「飲むな!飲んだら死ぬぞ!」意識の向こうで誰かが叫ぶ。これくらいの死線を乗り越えて、やっと完食できる。まさに驚異的なカレーである。

 さて、このように強力なパワーを持つカシミールの最強形態であるが、実はあまり有名ではない。というのも、この最強カシミールと双璧をなすもう一つのカレーが存在しており、こちらのほうが地元の人間にはうよく知られているからである。だが、うわさには聞けどもそれを見たものはあまりにも少ない。

 そのカレーの名はあかとんぼ。メニューには載っていない、究極の激辛カレーである。

 先ほど述べたように、赤とんぼは聞いたことがある人は多くても、実際に食べたことのある人は少ない。そこで誤解が生まれるのだが、ここではっきりしておきたい。赤とんぼはドライカレーである。メニューにもちゃんと、ドライカレー自体は存在している。ドライカレーを究極まで辛くして、真っ赤になった(少し黒みがかった)カレーこそが、赤とんぼの正体なのである。

 そもそもドライカレーは、作るのに時間がかかる。ドライ状態になるまでカレーの水気を飛ばすのだから当然である。そのため、さらに手間のかかる赤とんぼはよほど店がすいている状態でないと作ってもらえない。

 実は、私が今まで激辛カレー道を歩んできて、唯一敗北を味わったのがこの赤とんぼなのである。確かにそのときはまだ私自身の経験が浅かった。しかし、その時点でもかなりの辛さのものには耐えられるようになっていたはずだ。にもかかわらず、私はたった三口で敗北した。その時は実は、三人がかりで挑戦したのだが、結局三分の一も減らすことができなかった。

 赤とんぼを作るのには手間とお金が結構かかるらしく、他のどのメニューにもない「お持ち帰り」の制度がある。実に余計なお世話な制度だが、敗北した私は夜店でよくやきそばなどが入れられているようなパックに赤とんぼの残りをつめてもらい、悔し涙をこらえながら自転車をこいだものである。

 そんな苦い経験もあったが、それから2年後、私は赤とんぼを無事一適の水も飲まずわずか数分で制覇することができたのであった。

 

前へ戻る