第9章 ギザのピラミッド(9日目)


1.クフ王の大ピラミッド

今日はとりあえず、昨日行けなかったクフ王の第一ピラミッドに入るのが最大の目的。

クレープなんかも追加されて、ますますパワーアップの朝食。
Isomuraなどはクレープに大喜びで、置いてあるクレープをほとんど持ってきてひたすらクレープばかり食っていた。
そんな事をしていると、ツアーの女の子が一人同じテーブルに来た。姉と来る予定だったのだが、突然キャンセルになったらしく、一人旅になったのだと言う。


その時に、彼女は意外な事を言い出した。

「でも、クフ王のピラミッド、先着300名って、少ないですよねぇ」


は?


そんな話は知らんぞ。
やっぱり、「地球の歩き方」が4年前のバージョンだったのがいけないのか?
300名なんて、すぐだ。このままだと第一ピラミッドに入れない。

急いで食事を片付け、ホテルのおっさんと交渉。
一日タクシーをチャーターしたい旨を伝える。

ホテル⇒ギザ⇒サッカーラ⇒メンフィス⇒ダフシュール⇒ホテル

という道で、ホテルのおっさんには150E£と言われる
だが、150は高い。日本円で4500円。
で、値段交渉の結果、120E£になった。20E£を先払い。
しかし恐らく、そのうちの20E£はホテルのおっさんの懐に入るのだろう

ホテルの前の運転手を紹介される。
ドライバーの名前は「タッラー」さん。タラちゃんだ。
自己紹介をして、ギザへ向かってもらう。


ギザの入口では、「ギザ」に入るチケットを買わなければならない。
これは、「ピラミッド」にはいるチケットとはなのである。
さらに、タクシーが入るので、タクシーのチケットも買わなければならない。
いきなり一人20E£の出費。

そのまま移動し、クフ王のピラミッドの前に到着。今度はクフ王のピラミッドのチケットを買わなければならない。チケット売り場に行く。で、学生証を見せるのだが、Isomuraのは国際学生証なのだが、俺のは普通に大学の学生証。で、ここへ来て初めて拒否されてしまう。

だが、ここはエジプト。そう、吉村作治のお膝元だ(違う)。クフ王のピラミッドも、彼の調査隊が新しい横穴を見つけたりしているらしい。

というわけで、学生証の「WASEDA UNIVERSITY」の部分を強調。すると、売り場のおばちゃんはしぶしぶと学生チケットを切ってくれた。いい話だ。

チケットには「Great Pylamid」と書かれている。さすがは第一ピラミッドだ。

最大のピラミッドだけあって、クフ王のピラミッドは昨日のものに比べて多少移動がし易い。ちょっと中が広めになっているのだ。
結構高いところから入り、しばらくかがまなくてもいい高さで、真っ直ぐ歩く。そのうち登り坂になるので、じわじわと登っていくと、途中で上下に道が分かれる。上の道へははしごを上って移動。まずは上の道へ行くことにする。

上の道をしばらく進むと、大きな部屋に出た。

これが、王の玄室だ。
クフ王が眠っていたと言われる部屋である。
部屋には我々二人のほかには誰もおらず、辺りは完全な静寂が支配する。
喋ると声が反射する。なるほど、神秘的な部屋だ。


大きな棺と思われる石でできた箱状の物が置かれている他には、何もない。
周りには誰もいない。
そこで………

棺の中に入ってみた。手を胸の辺りで組む。


俺、ミイラ

………


ピラミッドを出て、周囲を回る。すると、大ピラミッドの裏に太陽の舟があった。世界最大の木造船らしいが、これを見るのにもまたお金が掛かる。面倒なので中に入らないで先に進むと………

セキュリティなんたらとか名乗る謎の老人が現れた。
彼は「NoMoney」とか言って、「裏から見られる」みたいな事を言い、ついて来いと指図する。
いかにも怪しい。
しかし言われたとおりにすると、なるほど、舟の裏についた窓から中身が見られるようになっている。

その後、舟が埋まっていたところや、大ピラミッドの頂上部(フランスに壊されたといっている)を見せてもらい、見晴らしのいい場所に連れて行ってもらって………最後にバクシーシ。
何なんだこの国は。公務員もたかるのか。

老人「お前ら、何人だ?
Isomura「韓国人。
老人「(ちょっと面食らった顔で)そうか。あそこはいい国だ。だから金をよこせ。

結局、二人で3E£。100円くらい。かなり不満そうだったが、この辺で日本人に対する誤解を何とかしておかねばならない。バブルは終わったのだ。


そうなれば、もうギザには用はない。タクシーに戻り、スフィンクスの側を通って今度はサッカーラへ向かってもらう。



2.ジェセルの階段ピラミッド

サッカーラは、最古のピラミッドと言われる「ジェセル王の階段ピラミッド」が残されている場所だ。もちろん入口でお金を払い、ピラミッドの近くまで行く。大分風化が目立ったが、歴史を感じた。
ピラミッドの裏は広い砂漠が広がっている。
本当に広い。地平線らしき物が見える。壮大な景色だ。

「あの辺まで行ったら多分帰って来れないんだろうなぁ」

などと、微妙に笑えない冗談を交わしつつ、ピラミッドの近くで椅子に座って休憩していると、何やら小鳥を持った子供達が寄ってきた。「マニマニ」とか言っている。要するに、「MoneyMoney」である。マネーだからあまり気にならないが、これが日本人のガキで、「金、金」とか言って寄ってきたら俺はきっと蹴り飛ばしていただろう。


次に、ダフシュールへ向かってもらう。
途中、ざるに入ったキュウリを売る姉弟が走るタクシーに迫ってきたが、無視して先に進む。

今度は、屈折ピラミッドと赤のピラミッドが目的。
屈折ピラミッドは、斜辺の角度が途中で変わってしまっているピラミッドで、失敗作だといわれている。もう一つは巨大な「赤のピラミッド」で、クフ王のピラミッドに匹敵する巨大な赤いピラミッド。

赤いピラミッドには入れるようになっている。
外壁を大分登った後、入口からひたすら階段を下る。かなり下る。すると、やけに天井の高い部屋に出る。

基本的にはそこで行き止まりなのだが、よく見ると螺旋階段がある。で、それを登った10メートルくらい上に、通路があるのだ。螺旋階段は後世の人間が作ったものだろうから、恐らく隠し通路だったのだろう。まさか、いきなりそんなに高いところに隠し通路があるとは思うまい。

通路の先には、取り立てて何があるというわけではなく、一部崩れているような感じだったが、かなり面白い作りになっているのは確か。

問題は帰り道。
来る時にひたすら階段を下ったと言うことは、帰るときはひたすら階段を上るのだ。暑いし、結構辛い。だが、我々はあの「サン・ピエトロ」を登ったので、相当自信がついており、結構息が上がったがそれほど苦しまずに上りきった。


3.メンフィスの都

次の目的地は、メンフィス。
メンフィスは、エジプトの古王国の首都だった街なのだが、今ではめっきり寂れている。広さも大したことは無く、町と言うよりは広場といった感じだ。

広場の中心には「アラバスターのスフィンクス」という、名物的な像が置いてある。
ちなみに、「スフィンクス」というのはギリシアのもので、顔が人間、体がライオン、鷲の翼を持った架空の動物。エジプトでは恐らくこれを昔からスフィンクスと呼んでいたわけではなく、ギリシア人がここを訪れた時に、ギリシアで言う「スフィンクス」と形が似ていたため、これをスフィンクスと呼ぶようになったようだ。

この街には、太陽の王と呼ばれたラムセス二世の巨像(足が無いので倒れている)や、メンフィスの守護神であるプタハの神像が置かれている。前者はちゃんとした建物が用意されていてそこに安置されており、後者はメンフィスの奥に仰々しく飾ってある。

ここに限った事ではないが、エジプトの観光地には至る所に軍人がいる
4年前、カイロよりはるか南のルクソール(王家の谷)で、テロリストによる大量殺人が起こり、邦人を含む多くの観光客が虐殺されたからだ。
それ以来そういった事件は起こっていないが、実際に俺らが日本に戻った3日後、ギザで一人の日本人が刺されている。
で、その日本人を差したエジプト人は、軍人に射殺されたそうな。
まぁ、そういう国である。

そんな国で、軍人にたまに手招きされたりするので、注意が必要なのだ。
ちょっと怖い。


Isomuraが土産物屋に興味があるようなので、ちょっと見てみる。といっても露店。店の親父にとっ捕まって、スカラベ(フン転がしの一種。エジプトでは神聖な虫)のアクセサリーを「ラッキーアイテム」とか言って一つタダでもらい、「買わなくていいから」とか言って出土品を見せてもらった。いくつかは本当にここの親父のコレクションらしく、相当凄い物も混じっているらしい。いつの間にか商売に突入していたが、俺は買わなかった。というか、買うお金がない。Isomuraはバステト(ネコの女神)の小さな像を買っていた。180E£から40E£まで下げていた。恐るべきどんぶり勘定の国である。


メンフィスから出て、側のレストランでメシを食おうと思ったら、小さな女の子の集団がやって来た。何でも、「あっちで人が呼んでる」と言ったようなジェスチャー。みると、運転手が手招きしている。

運転手のほうに行く途中、やっぱり女の子は「MoneyMoney」言っていた。それに対して返事をするも、どうも「Money」しか英語を知らないらしい。恐るべし。

運転手はパピルス屋の入口で、何やら食っていた。液状のチーズ類と、それにパンか? ちょっと食わせてくれた。酸っぱい。梅干みたいなものが入っている気がする。「Fish」とか言うので、見てみるとシーチキン。やっぱりそれをパンにつけて食べるのだ。


さて、そのままパピルス屋に連れて行かれるのだが、もちろん買わない。絶対にこのタクシー親父、パピルス屋と繋がっている。中でまたもや紅茶をもらった。エジプト人の紅茶は基本的に死ぬほど砂糖が入っている飽和状態とも言える。


まぁそれはそうと、そろそろ昼飯タイム。
妙に一軒のレストランを勧めるのだが、にも関わらず「俺はこの店に入るのは初めてだ」みたいな事を言う。初めての割に「安くて美味い」とか言う。怪しさメガトン級だが、まぁ仕方ない。他にどこに行きたいと言うのもないわけだし。

レストランに入ると、問答無用で全メニュー40E£(1200円)。昨日の昼飯を考えると圧倒的高さだが、日本でも1200円の昼飯などそうそう食うものではない。感覚がおかしい。
で、料理はシシカバブをメインに据えたコースなのだが……
これが、美味いのだ。驚いた。

ナスのエジプト風揚げみたいな物が前菜に出てきた。これがかなりの物。
あとは、さっきパピルス屋でみかけた薄いパンと、それにつけるペースト状の「タヒーナ(ゴマのペースト)」や、チーズペーストモロヘイヤとヨーグルトのペースト。タヒーナとチーズペーストはちと酸っぱすぎたが、モロヘイヤは中々いけた。
メインのシシカバブはかなり美味い。ビーフとシシカバブのグリルみたいな物に、ライスとパスタを混ぜたような物を添えて出てくる。日本人好みの味と言うか、相当美味かった。

デザートはオレンジ。オレンジ一つ丸ごとと、ナイフが渡される。これも甘くて美味しかった。確かに値段だけの価値はあるが、そろそろ破産寸前だ。


タクシーでギザに帰る途中、さっきのキュウリの子供たちがまた寄ってきた。丁度踏み切りのあるところで待ち構えており、車が一時停車すると同時にわーっと寄ってくる。運転手はキュウリを一本買っていた。ちょっといい話。


ギザに戻る。昨日民芸品を買ったような店だが、運転手はこの辺が地元らしい。で、Isomuraがアクセサリを買って帰るそうなので、一件寄ってもらった。もちろん運転手の知り合いの店で、俺らが商品を眺めている間、ふんぞり返ってテレビなど見ていた。リラックスしすぎ。

なお、その民芸品屋には先ほどレストランで見かけた日本人客が後に現れ、明らかにカモられている。

そのままホテルに戻り、100E£+チップを渡し、帰る。
さらばタラちゃん。胡散臭い親父だけど、憎めなかったよ。


さて、これからしばらく休まなければならない。
何しろ、1時(今晩)に集合なのだ。

明日のために、下で水を買うことにする。
昨日も買ったのだが、場所は初日にハンバーガーを食った喫茶店みたいな場所。

だが、おかしい。

昨日は、一本2E£だった。
デパートで買ったら0.75E£だったのだが、まぁそれはいい。

ところが、今日はなんと2本で5E£なのだ

どう考えても適当に商売している


ナめるなエジプト人。国籍で商売するな。

「セットで買っても安くならない」FK方式もひどいが、それよりもひどい恐ろしい店であった。


ところで、俺が部屋で日記を書いていると、同じツアーの人が部屋をノックした。連絡網らしい。

「集合、12:30だって」

マジ?

世界征服の暁には、少なくとも一日は午前6時から始まることを定義づけようと固く心に誓う。

第10章 関西国際空港へ